大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ツ)62号 判決

上告理由は第一点ないし第四点に及ぶが、所論は、要するに、昭和二五年五月一一日横浜地方裁判所において成立した同裁判所昭和二五年(ノ)第五〇号事件の調停調書中第一項では、川崎市大師中町三番地宅地三一九坪三合五勺(区劃整理による換地々積二八〇坪一勺)のうち、同所同番のA宅地一四一坪四合一勺中二四坪の部分(上告人らが建物を所有して現に占有している部分)に対する借地権は、期間一〇年となつているけれども、それは一時使用のための借地権を意味するものではないところ、原判決がこれを一時使用のための借地権であると認定したのは、理由不備ないし理由そご・判例および経験則違反等の違法、或いはまた罹災都市借地借家臨時処理法を適用しなかつたが、同法の解釈を誤つた違法がある、というのである。

原判決は、その確定した事実(原判決六枚目表一一行目より八枚目表九行目まで)に基き、調停条項で定められた一〇年の賃貸借期間は特に賃貸期間を一〇年に限定した趣旨のもので、原則的には更新を予想しないものであり、かつ本件賃借権にも法定更新の規定の適用があり、右賃借権が半永久的に存続することになるならば、被上告人も到底右調停には応じなかつたのであろうことが右認定事実から窺えるので、それらの事情を勘案すると、右調停に基く本件借地権も借地法第九条にいわゆる一時使用のため借地権を設定したこと明らかな場合に該当すると判断した。

思うに借地法第九条に「臨時設備その他一時使用のため借地権を設定したること明らかなる場合」とは、必ずしも借地の使用態様それ自体から客観的に一時使用のためのものであることが明らかな場合に限られるものではないが、賃貸借をするに至つた動機その他諸般の事情から、賃貸借を短期間に限定するにつき、双方が充分納得して契約したと認めるに足りる事由の存する場合を謂うものと解するのが相当である。原審は賃貸人たる被上告人(前記調停事件の相手方)の意思が前記の通りであることを認定したが、他方賃借人たる上告人豊造(同調停事件の申立人)において、一〇年の賃貸借期間が更新を予定しないものであること、換言すれば一〇年後には地上建物を収去して借地を明渡すべきものであることを充分了解して、調停を成立せしめたものであることは、原判文上明らかでない。寧ろ、若し上告人豊造の意思が被上告人と同様であつたならば、双方が本件調停手続において法律の専門家たる弁護士を代理人として選任している(甲第二号証)のであるから、調停条項中に借地法第九条にいわゆる一時使用のための賃貸借であることを明らかならしめることは容易であつたと考えられるのに、調停調書(甲第二号証)中にはその旨の条項は見当らず、却つて本件賃借権が「普通建物建造のため」設定されたものであること及び賃借人において本建築をすることを予想した条項のあることなど反対趣旨の推認されるような条項のあることに鑑みると、みぎ調停成立に際し、上告人豊造が一〇年の賃貸借期間は更新を予定しないものであることを充分に了解していたかどうかは甚だ疑わしいと謂わねばならない。

而も原判決の確定したところによれば、上告人豊造は罹災建物の賃借人だつたので、被上告人に対し罹災都市借地借家臨時処理法に基き右罹災建物の敷地約百坪につき借地権設定並びに借地条件確定の申立をしたところ、裁判所は右事件を調停に付し、その結果、上告人豊造は右罹災建物の敷地として当時占有していた八十七坪を六ケ月内にその地上にある建坪十四坪五合の建物を収去して被上告人に明渡すこと及び被上告人は同上告人に対し右土地に隣接する同一地番内の土地二四坪に普通建物所有を目的とする賃貸借期間十年の賃借権を設定することを骨子とする本件調停が成立したというのであるが、みぎ調停を成立させるに当り、上告人豊造が従前借地権設定等申立事件において主張していた借地坪数を大幅に譲歩して二四坪とすることを承諾した上に更に一時使用のための借地権に甘んずるほかないと謂うような立場にあつたものと推断できる事情について原判決は何ら触れるところがなく、むしろ原判決認定の調停成立までの経過に徴すると、他に特段の事情のない限り上告人豊造はそのような立場にはなかつたものと推断されるのである。

これら諸点を考慮すると、原判決の認定した事実によつて、本件賃貸借を短期間(一〇年間)に限定するにつき、双方が充分納得して契約したと認めるに足りる事由があつたと判断することは困難であるのに、原審が賃貸人たる被上告人側の意向のみを重視して、これを一時使用のため借地権を設定したことが明らかな場合であると判断し、一〇年の期間の満了により本件賃貸借契約が終了したものと認定したことは、法令の解釈に誤りがあるか、理由不備の違法があるものと謂うのほかなく、この点において本件上告は理由がある。

(岸上 室伏 斎藤)

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